20世紀中に最大の被害をおよぼした火山噴火は、1991年のフィリピン・ピナツボ火山でした。
「国際災害データベース」によれば、死者数640人、影響人数104万人、推定損失額2億100万ドル(約284億円)という未曽有の規模でした。この噴火は、フィリピンの政府支出に約2%もの経済損失を生じさせました。
ピナツボ火山は1990年までは火山活動が活発ではなく、過去600年間休止状態にあったようです。
最初の異変が起きたのは、主噴火の約11カ月前の1990年7月16日。この日、ピナツボ火山の北東約100キロメートルを震源とするM7.8のルソン島部地震が発生しました。
このルソン島中央部で起きた地震は、1906年のサンフランシスコ地震に匹敵するものとされています。
この直後、ピナツボ火山で土砂崩れや地震が発生し、一時的に噴気が活発化しました。アメリカ地質研究所の資料によると、「(ルソン島北部地震が)ピナツボ火山の真下の地殻を揺らし、圧縮した」と書かれています。
さらに1991年3月、ピナツボ火山周辺で小規模な地震が群発するようになり、4月には山頂近くの北西斜面で水蒸気爆発が起こりました。6月初めまでの地震発生回数は数千回に上り、二酸化硫黄ガスが大量に放出されました。
そして起こったのが噴火。
6月初め、傾斜計が火山の膨張を示し始めました。火口の下にあるマグマの増大が原因であることが考えられました。
同時に、以前は山頂から北西約5kmの地下数kmに集中していた震源が、山頂直下の浅部に移動したことがわかりました。
6月7日、最初のマグマ性噴火で山頂に溶岩ドームが形成、5日間で成長し、直径が最大約200m、高さが最大40mにもなるものでした。
その後、6月12日3時41分の小規模な爆発から始まり、15日まで4つの大噴火で、火山砕石物が火山南西の広範囲に降り積もりました。4回目の大噴火が治まってから2時間後、さらに噴火が始まり24時間連続しました。
ゴルフボール大の軽石が降り注ぎ、クラーク空軍基地のすべての地震計は振り切られていました。また強烈な空振が記録されています。
折しもこの時期に到来した台風により被害がさらに大きくなりました。火山75キロメートル地点を通過した台風5号(YUNYA)による暴風とともに火山灰を高度34キロメートルまで噴き上げました。
降雨により、より重さを増した火山灰は、家屋や避難所を破壊させて被害を拡大することになりました。噴火直後には、死者300人ほどでしたが、その死因は重みを増した降灰により、家屋や避難所の屋根が倒壊したための圧死によるものです。
その後も降雨は続き、避難所で避難していた数百人が衛生状態の悪化で、亡くなっています。
これだけの規模でありながら、被害が少なかったのは、予測に成功していたからだと高い評価があります。
しかし、その後も噴火は断続的に続き、9月までの噴火回数は200回を超えていました。フィリピン出身の防災工学者のロランド・オレンセ氏(ニュージーランド・オークランド大学教授)らの論文によると、被害を次のように示しています。
「火山周囲の4000平方キロメートル一帯に推定60億立方メートルの火砕物と火山灰が噴出し、火山を源流とする8河川を覆った。降下火砕物の厚さはサンカンの谷では数センチメートル、渓谷では100〜200センチメートルに達した。
降灰の厚さは火山から40〜50キロメートルの地点では数センチメートル、火山近くでは50センチメートルに及んだ。火山から30キロメートル圏内の約6万人の避難に成功したため火砕流による犠牲者が多くならずに済んだ。
だがそれでも噴火による最大800人が死亡し、10万人が家屋を喪失した。さらに大気に放出された数百万トンの二酸化硫黄は、その後の数年にわたって世界中で低温をもたらすことになった」
噴火の沈静後も、毎年のように雨季になると火山泥流が発生して数千人が避難しています。また、地域の農業は、噴火の影響で大打撃を受け、数百km2もの耕地が不毛と化し、数千人に及ぶ農民の生活基盤が破壊されました。
この地域には、米比相互防衛条約に基づく大きな米軍基地が2つ存在していましたが、火山の南西75kmのスービック海軍基地と、東40kmのクラーク空軍基地の2つの基地が噴火により大きな被害を受け、そのまま放棄されています。
(クラーク空軍基地はその年11月にフィリピン政府に返還され、1993年に空港、ホテル、ゴルフ場、カジノ、免税店、国際会議場などに転換されています。またスービック海軍基地は、自由貿易港をはじめ、スービック・ベイ国際空港、ホテル、ゴルフ場、ショッピングセンター、免税店、病院などに転換されいずれも経済特別区と指定されています)
1991年の噴火はその大きさと激しさにおいて20世紀最大級でしたが、地質学者が発見した過去の噴火に比べると小規模なもののようです。
以上今日も読んでいただきありがとうございました
富士山の噴火は始まっている!