アナザーストーリーズ 運命の分岐点「浅田真央 伝説のソチ五輪」
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今年2017年4月、フィギィアスケート選手浅田真央が引退しました。長きにわたって日本中のファンをとりこにしてきた真央ちゃん。親しみを込めて「真央ちゃん」と呼ぶ人も多い愛されたスケーターです。
第1の視点「プルシェンコ、真央の代わりはいない」
第2の視点「ソニコワ、女王が敬服した」
第3の視点「タチアナこれは悲劇だ」
浅田のショートプログラムでのトリプルアクセル1回、フリーで2回のトリプルアクセルを成功させました。女子選手がひとつの大会で3度ものトリプルアクセルを飛んだのは、史上初めてのことでした。
だが、金メダルの栄冠は、韓国のキム・ヨナに輝く。この結果に日本のファン以上に憤ったのがプルシェンコでした。
「トリプルアクセルを跳んだのだからもっと高い点をつけるべきだ」
と発言。大きな物議をかもしました。
――プルシェンコ
ほんとうのことを言っただけだよ。まぁあれ以来韓国には全く呼んでもらえなくなったけど、かまわない。だって、スポーツはスポーツだろ?オリンピックは芸術祭じゃなくて、スポーツの大会なんだ。ウサイン・ボルトが誰よりも早くはしったのに、走り方が美しくなかったから2位です、とかあり得るかい?最も難しいジャンプを跳んだ選手が最も良い結果を得るべきだ。
――プルシェンコ
まあ、ぼくもあの大会では、金メダルが取れず、銀メダルで終わったんだけどね〜〜。
バンクーバーでは、プルシェンコも悔しい思いをしていました。4回転ジャンプを誰よりも多く跳び、金メダル確実かと思われていたが、採点の結果は、アメリカのサイザーテックに敗れました。
オリンピックの借りはオリンピックで返す。
プルシェンコも浅田真央も4年後のソチ大会を目指すこととなりました。
迎えた2014年、ロシア・ソチオリンピック。
この大会のフィギュアスケートには、それまでと大きな違いがひとつありました。それは、団体戦の実施。
個人戦の11日前、団体戦に参加した浅田真央は、
――浅田
予想以上に自分が緊張してしまって、自分の練習通りの演技ができませんでした。
と演技を終えてインタビューに答えています。
「ジェーニャ!ジェーニャ!」(プルシェンコの愛称、ロシアでは定番)
一方4度目のオリンピックとなったプルシェンコも、団体戦は初めてでした。
大きな歓声、自国開催の重圧ものしかかる。
――プルシェンコ
あの時は、9ヶ月前に椎間板ヘルニアの手術をしたばかりで、100%の演技ができるか正直不安だった。でもだましだまし頑張った。ロシアでやる以上、僕がチームを引っ張らなきゃならなかったから…。
この時大ベテランの31歳、しかも怪我からリンクに戻ったばかりでした。
―――だが、4回転半、3回転半、ダブルループなどノーミスの演技でプルシェンコに導かれたロシアチームは、団体戦金メダルに輝きました。
ただ、その代償は大きかったのです。プルシェンコは、団体戦4日後の男子個人ショートプログラムの本番直前練習中に体に異変を感じ、演技を辞退、この瞬間プルシェンコのオリンピックは終わったのです。
――プルシェンコ
あの練習で、ジャンプの着地をしたとたん、腰にものすごい激痛が走ったんだ。椎間板の手術をしたところのネジが完全に外れていた。
団体戦のダメージは想像以上に深かったのです。
では、同じく団体戦に出場した浅田には不安はなかったのでしょうか。
これについては、本人にしかわからないところですが、個人戦初日の演技については浅田本来のものでは到底ありませんでした。
ショートプログラムまさかの16位…トリプルアクセルの失敗からミスが続きました。
――プルシェンコ
真央の滑りに元気を貰おうと自宅でテレビを観ていたんだけど明らかに調整がうまく行ってなかった。疲れなのか練習のしすぎなのか…。でも彼女を責めてはいけない。フィギュアスケートというのは、本当に難しいスポーツなんだ。アイスホッケーとかサッカーとかのチームスポーツなら交代してもらうこともできる。ケガしてベンチに下がっても、チームが勝てば勝者になれる。でもフィギュアスケートは違う。常に最高の自分でなければならない。だから練習しても練習しても、練習し足りないように感じてしまう。むしろ称賛すべきは、真央が次の日に、本来の自分の演技を取り戻したことだ。それは、並大抵の選手にできることじゃない。
そう、そのわずか1日後、生涯最高得点の演技を披露することになる。
引退会見時、浅田は、「リンクのドアを開けた瞬間、これはやるしかない、とやる気になった」と気持ちが切り替わったことについて話していましたが、これについてプルシェンコは、
――プルシェンコ
これはそんなに難しいことじゃない。だって、それができるからあのレベルなんだもの。…ぼくらは氷の上で3回転半、4回転跳べる。人間としては、極限の世界にいるんだ。審判も観客もその虜さ。誰にもできない技ほど、みんなを支配できる。目が離せない。それができるのがぼくらなんだ。
公式戦で、10年以上トリプルアクセルを跳び続けてきた浅田真央。示してきた道が、扉を開く。
――プルシェンコ(あの演技のビデオを観ながら)
まぁ、このトリプルアクセルは普通の出来だね。って言っても真央にとっては、という意味だよ。だって、この時トリプルアクセルを跳べる女性は、彼女しかいなかったんだから。・・・もっと高い得点をつけてあげても良かったと思うよ。トリプルフリップ、トリプルループ、これはなかなかできない。ジャンプの怒涛が止まらない。拍手が続いている、観客を支配しているね〜。素晴らしい。
演技の前半3回転半を8つ、すべて成功させた浅田真央…。伝説の演技は感動の後半へと続いていきます。
皇帝プルシェンコをうならせた圧巻のジャンプ。でもこの演技の凄さはジャンプだけではありません。華麗なるスピン、渾身のステップ。ジャンプ以外でも心を揺さぶる演技は、同じ舞台に立ったライバルの心も震わせました。
次は、第2の視点「オリンピック金メダリストアデリナ・ソトニコワ」へ続きます。
続く