資本主義は終わるまで終わらない。
現物のドグマなど投げ捨てろ仮想通貨急落で揺らぐ信仰1990年代後半「インターネットは時代を変える」と気付いた起業家たちと投資家たちがインターネットに殺到した。
そして、ドットコム・バブルが起きて、人々はインターネット関連の株式をPER(株価収益率)100倍でも200倍でも買い漁っていった。「インターネットは世界を変えるのだから、高PERは正当化できる」と投資家たちは豪語した。
しかし、2001年に入ってから、この壮大なバブルは突如として弾け飛んでいった。
その後、インターネットが世界を変えるのは間違いない事実だったのだが、「ドットコム企業」をバブルの高値で買い上げてきた投資家は助からなかった。
そして、このITバブル崩壊から16年後、2017年に突如として新しい市場で巨大なバブルが形成されていた。仮想通貨市場のバブルである。
「ブロックチェーンは時代を変える」と気付いた起業家と投資家たちがこの分野に殺到し、ビットコインは時代の寵児と化し、後を追う多くの通貨は「アルトコイン」と呼ばれてそれぞれがバブルを形成した。
「ブロックチェーンは世界を変えるのだから、どんなに高いところで買っても、もっと上がっていく」と人々は熱狂した。しかし、2018年1月16日に仮想通貨市場は突如として変調を起こして半値以下に沈む大暴落を見ることになった。
禅問答に毒される投資家たち仮想通貨の「価値」は、何をどう計れば正解なのかは誰も分かっていない。
株式であれば、企業の売上や利益の額で企業価値を計ることができる。利益が上がり続けていれば、そこにどれくらいの将来価値を描けばいいのかも分かる。
しかし、仮想通貨は売上も利益もない。配当もない。株式を評価するための最初の一歩「Show the money(どれだけ稼いでるのか、現ナマを見せろ)」が通用しない。
仮想通貨の価値を評価する方法は、人それぞれで確立されていない。だから、価値はゼロだという人もいれば、無限だと捉える人もいる。
価値がゼロであればいかなる価格も高い。価値が無限なのであればいかなる価格も安い。かくして、ゼロと無限の間を仮想通貨市場はどちらにでも転ぶことになる。
2018年1月16日から起きた暴落は、本当にバブル崩壊なのか、それとも単なる調整なのか、それすらも分からない。価値の評価が分からないからである。分からないから、これから暴落どころか暴騰すらもあり得るのだ。
ただ、2017年後半から一気に10倍になった価格を見て飛び込んだ人は、まだ損失を取り返すに至っていない。そして、レバレッジを利用して上がる方向に賭けていた人は、みんな討ち死にしてしまった。
ブロックチェーンという仕組みは強固で巧みに考え抜かれた正当なイノベーションであったとしても、人々が思っている価格が正当なのかも判断できない。
そのため、人々は為す術もなくバブル崩壊に巻き込まれ、レバレッジを賭けていた命知らずの投機家は一瞬にしてロスカットに追い込まれていった。
投資家が資金を預ける仮想通貨市場の取引所も安全だとは限らず、取引所がハッキングされて580億円が消失するような事件に巻き込まれる投資家も出てきた。
こうした大混乱の中で仮想通貨市場は成り立っている。
古典的な罠に嵌まる
「ビットコイン教」の元信者たち仮想から現物、地獄から地獄へ逃げ出す愚今後はすべてがインターネットに取り込まれていく。すでに音楽も、書籍も、映画も、インターネットの向こう側からくるものとなっている。そして人々は手持ちのハードディスクも手放し、クラウドに自分のデータを預けるようになった。
つまり、すべてが「仮想」になっていった。
そして、いよいよ新しい波が来ている。紙幣や小銭といった形のある「お金」がインターネットに取り込まれて仮想化していくのである。
それをブロックチェーンという技術が担い、そこで使われる通貨は「仮想通貨」になる。ビットコインを筆頭に、新しい仮想通貨が次々と生み出され、今や1500を超える仮想通貨がひしめいている。
しかし、通貨は1500種類も必要ない。これは完全に競争過多であり、ブロックチェーンの技術がくるとしても、1500以上もの通貨がすべて生き残るわけではない。
ゴールドマンの警告と金への逃避ゴールドマン・サックスの投資調査世界責任者であるスティーブ・ストロンギン氏は、いずれはその大半の仮想通貨が消えて少数に収斂していくと2018年2月5日のレポートで述べた。
ただ、どれが生き残ってどれが消滅するのかは示していない。まだ何も分からない。もし消滅していく通貨を保持していた場合、仮想通貨は仮想のまま消滅していく。
こうした「影も形もない」仮想通貨の現実は、2018年1月16日以後の大暴落によって投資家たちに意識されるようになり、一部の人たちは仮想通貨を捨ててゴールドに逃げている。
ゴールドとはまた対極的だ。それは仮想ではない。現実であり、現物だ。手に取って抱くことができ、その輝きは永遠に失われることはない。
1000年経って、所有者と文化と国が消えてなくなっていてもゴールドだけはそこに残る。
だから、仮想通貨の不安定さを感じた投資家は、仮想通貨の価格が崩れ落ちていく中に、仮想通貨とは真逆の「現物の王様」であるゴールドに資金を移動させていったのは気持ちとして理解できる。
しかし、肝心のゴールドは、ビットコインの夢から覚めた投資家が次に目指すべき場所なのだろうか。
原代資本主義において
ゴールドの保有が「危ない」理由「売れない、増えない、配当がない」の三重苦ゴールドの価値は永遠だ。ゴールドは信用できる。途上国の人々は、いつ吹き飛ぶのか分からない自国の通貨よりもゴールド・プラチナ・ダイヤモンドのような「現物資産」を好む。
自国通貨の価値が崩壊しても、ゴールドは外国では通常価値で取引できるのが保証されているので心強い資産である。その点は間違いない。
しかし、現代の資本主義の中でゴールドを持つのは、必ずしも得策ではない。
ゴールドは配当を生み出さない。長く所有していたとしても増えることもない。ゴールド自体は、勝手に1オンス重くなったりしない。
もちろん、インフレヘッジくらいはする。だから、紙幣や小銭をタンス預金するよりは絶対にマシだが、インフレヘッジ以上の存在にはならない。
現物信者が信じる「金本位制」の再臨はない
もし、ゴールドがインフレヘッジ以外に現状維持以上の価値を生み出すとすれば、金本位制が復活する時だ。ゴールドがすべての経済価値を表すのであれば、ゴールドの所有は意味がある。
しかし、結論から言うと金本位制の復活はない。
所有するゴールドの量だけしか通貨が発行できないのであれば、不景気になっても中央銀行は紙幣をばらまいて景気を浮揚させるという手が打てない。それで貿易赤字になったらゴールドがどんどん流出してしまう。
1ヵ国だけが金本位制にしてしまっても同じ現象が発生する。なぜなら、金本位制にした国は通貨発行量が決まっているので、その国の通貨はあっと言う間に高くなるからだ。
すると輸出が絶対的に不利になって不景気が訪れ、貿易赤字が発生する。そしてゴールドが流出していく。
ゴールドの流出を政府が止めたら、金本位制はあっと言う間に破綻する。しかし、貴重なゴールドの流出を守るために、政府はそうするしかない。
金本位制は資本主義を維持できない。だから金本位制の復活はない。ゴールドは、インフレヘッジか宝飾品として楽しむくらいが限度である。
資本主義のこの「残酷」は
終わるまで終わらないと知れ残酷な多国籍企業が支配する
資産として仮想通貨から他に逃げるのであれば、きちんと配当を生み出し、成長し、所有すればするほど価値が膨らんでいく資産に逃げる方がいい。
ゴールドがそうでないのであれば、何が良いのか。それは国債でも不動産でもない。株式だ。
特に勝者がすべてを総取りするグローバル化した現代社会においては、全世界の市場を手中に収めることができる超優良な多国籍企業の株式を保有するのが最も合理的だ。
そうした企業はすべて現代資本主義の総本山であるニューヨーク証券取引所に集中しているのだから、そこで上場している超優良多国籍企業の株式を保有しておくというのが最も効率的かつ安定的な資産(アセット)となる。
こうした株式が素晴らしいのは、事業が利益を生み出す構造がすでに出来上がっており、この利益をもって価値を算出できることだ。企業の当期純利益を株式数で割れば、1株あたりの純利益がいくらになるのか計算することができる。
仮に1株あたり100円の純利益が出ている株があったとすれば、それが50円で売っていれば誰でも「安い」と思う。安いと感じるのは、株式はどれだけ稼いでるのかを「Show the money(開示)」しており、計算ができるからなのだ。
莫大な利益を出し続ける企業は「将来はもっと稼ぐ」「将来はもっと成長している」「将来の配当は今よりも大きい」という側面があるので、株式はそのすべてにプレミアム(割増価格)がついている。
だから、そのプレミアムをいくらで算出するのかが投資家の仕事になるのだが、仮にプレミアムを過大に払って失敗したとしても、企業は成長するのでいずれは支払ったプレミアムを超えていくことが多い。
多国籍企業の株式は何にも勝って安定した資産である。企業は事業を継続して利益を出し、成長し、配当を出す。こうした企業の株式を保有するというのは、安定資産としての価値はゴールドを凌駕していると言える。
そうであれば、仮想通貨の不安定さに恐れをなした投資家が逃げる先はゴールドではないことに気付くはずだ。
信仰心ではなく合理的思考で勝つニューヨーク証券取引所に上場している優良な企業群は今や途上国をはるかに超える資金を持ち、世界に影響を及ぼしている。仮想通貨自体も、最後にはこうした企業が取り込み、支配する世界になる可能性が高い。
仮想通貨は世の中を「変える」可能性が高い。そして、多国籍企業は世の中を「支配する」可能性が高い。当たり前のことだが、莫大な金は最後には支配する側に流れていく。
マネーボイス鈴木傾城氏の記事より