グリーンピース;福島・琵琶湖放射能測定結果東京電力福島第一原発事故から5年になる2016年の2月から3月にかけて、グリーンピースによる測定が行われました。
福島県隠岐都福島県・宮城県の川岸、また、現状把握を目的に、関西電力が再稼働を進めた福井県の原発から数十キロにある滋賀県の琵琶湖で、放射能測定調査を実施。
福島県では新田側の川岸で採取したサンプルから最大で29.800Bq/kg(セシウム134,137の合計)を検出。福島県沖の海洋では最大でも144 Bq/kg(セシウム134,137の合計)でした。海では激しい潮流が放射性物質を拡散するため川岸より低い数値となっていますが、過去の他機関の調査ではより高い値も検出されており、さらなる調査が必要です。
今回の調査と2015年に森林などで実施した調査結果と合わせ、「森林や淡水系が長期間放射能の供給源となり続ける」ことが改めてわかりました。
琵琶湖では採取したサンプル4点中2点から7.1〜13 Bq/kgのセシウム137を検出。半減期の短いセシウム134は検出されなかったため、過去の大気圏核実験とチェルノブイリ原発事故の影響と思われます。
これまでの調査から、放射能は森林や河川・湖沼など生態系の中でゆっくり移行する、つまり影響は広範囲で長期にわたることがわかってきました。琵琶湖は世界でも有数の古代湖。350万年以上も前から存在し、約60種の個体生物の生息地でもあります。
関西地方の1400万人の水がめであるだけでなく、周辺の文化、経済とも密接に関わっています。何ものにも代えられない琵琶湖が汚染されるリスクは、なんとしても避けたいところです。
■太平洋へ流れ込む放射能東京電力福島第一原発事故により太平洋に放出された放射性物質と、それらが海洋生態系におよぼす影響について、理解するには、既知だけでなく、潜在的な放出物について概念しておくことが必要。
放出源は一つではないため、何がすでに太平洋に放出されたかを正確には把握するのは難しい。よりよく理解するために、事故が起きてからの放射性物質の排出を、いくつかの局面に分けて把握することが有益です。
・第1局面2011年3月12日〜3月末
東電福島第一原発の1〜3号機の水素爆発とベントで生じた、大気中への気体状および微粒子状放射性物質と、それに続く放射性プルーム(放射性雲)の放出。
・第2局面2011年3月〜5月末
東電福島第一原発の北と南の放射口からの放射能汚染水の放出。3月26日以降、大量放出が報告されている。
・第3局面2011年5月〜現在まで
放射能に汚染された地下水の原発からの移動による放出と、地下施設からの水漏れ。
・第4局面2011年3月〜進行中
福島の沿岸部と内陸部から、河川、地下水、河口域を経由する流出。雪解けの季節、台風の季節、大雨の時急増する。
<第1〜第2局面の放出量>2011年3月〜5月
東電福島第一原発事故による放射性物質の放出量は、推計方法が多種多様であり、値はかなりの不確実性を残している。東電の2013年データは、2011年3月26日から9月30日までのあいだに放出されたCs-134とCs-137について、それぞれ3.5PBq(ペタベクレル;1ペタは1000兆のこと)と3.6 PBqだったと推定しています。
これに対し、フランスの放射能防護原子力安全研究所(IRSN)が2012年に行った推計では、2011年3月21日から7月半ばまでの間のCs-137の放出量は、27 PBq(27×1015Bq)だったとされています。
<第3局面の放出量>2011年5月〜現在まで
事故直後の数日あるいは数週間の放出量は最高レベルに達したが、事故発生から現在までの63ヶ月間(2016年4月までの調査)放射能の太平洋への放出が続いています。
東電福島第一原発:2011年春のピーク時以降太平洋に直接放出された放射性物質の総量については、食にモニタリングしていなかったこと、原発サイト内の地下水の流れが複雑であること、そして事故による条件悪化などで、正確なことはわかっていません。
しかし、2011年〜2016年までの期間に東電福島第一原発から放出された放射性物質の量は、初期段階の放出が大半を占めると言って間違いありません。
東電が公表しているデータによると、2011年5月から2014年末までに原発敷地から太平洋に排出された放射能の総量は33 TBq(テラベクレル:1テラは1兆のこと)で、これは事故後の初期段階で海洋環境に放出された放射性物質の0.1%〜0.9%に相当する。2016年までの全期間の総排出量については、東電によるデータの公表はありません。
しかし、この33 TBqという数値は、例えばフランス北部にあるEU最大の原発グラヴリーヌ原発の通常運転での放射能の放出量と比較すると莫大であります。
同原発の6機の原子炉が2008年に放出したCs-137は0.000066TBqだった9。2011年5月〜2014年12月までの3年半に東電福島第一原発から放出された放射能は、グラヴリーヌ原発の放出量の実に50万年分に相当するのです。
<第4局面の放出量>2011年3月〜現在まで
陸上起因の放出(河川経由の放出)
2016年3月に発表したグリーンピースの報告書『循環する放射能』で詳述された2011年3〜4月における大気中への放射能放出と地上への沈着の結果、原発事故の影響を受けた福島県内全域と隣接地域の山岳部の森林と淡水生態系は、巨大な放射能の貯蔵庫となっています。
森林地帯に沈着した放射性セシウムの一部は、事故発生直後以降、雨水などで急速に洗い流されて河川など水系へと移動しました。放射性セシウムの残りは、森林の集水域と淡水系中に貯えられて、長期間かけて再循環したり、低レベルで下流に向けてゆっくりと移動したりしていきます。
河川は、放射性セシウムを下流に運ぶ。粒状物に吸着したセシウムが、ゆっくりとした流れではウォーターカラム(水面から底までの垂直な部分)から流れ落ち、川底に堆積し、大雨が降ったときや、雪解けの季節には、それが再度舞い上がる。汚染された森林と土地は広大なため、河川を介してのセシウムの再分配の影響は極めて重要でしょう。
福島県と周辺の県には、放射能で汚染された海抜の高い地域の森林に源を発し、太平洋へと注ぐ大小数々の河川が流れているが、これらの水系(とくに阿武隈川、鳴瀬川、七北田川、名取川、久慈川、那珂川、さらには真野川、新田川、太田川、請戸川などのより小規模な水系)の集水地域の面積は、数千平方キロにものぼります。
Evrardらは次のように報告している。
「2011年3月から4月の期間に最も大量の放射性セシウムで汚染されたのは阿武隈川水系で、請戸川水系と新田川水系がそれにつづいた。沿岸地域の14水系の集水域に降りそそいだ放射性セシウムの総量は、上は阿武隈川水系の734.9TBqから、下は井出川水系の16.2TBqまででありました。
これら14水系の集水域に降りそそいだ放射性降下物の全量のうち、阿武隈川水系の集水域に降下したのはほぼ30%と最大で、以下、請戸川水系が26%、新田川水系が12%だった」。
2011年6月から2012年5月までの1年間にわたって5,172平方キロにおよぶ阿武隈川水系の集水域を調査したある研究15が、初期に降下した放射性セシウムの総量(890TBq)のうち太平洋へと運ばれたのは1.13%だった、と推定しています。
J.Kanda による画期的な研究は、河川を経由して海洋環境に運ばれる、陸上起因の汚染がどれほどになる可能性があるかを明らかにした。人工の港湾と周辺の海域における放射性核種の濃度について公表されているデータと比較することによって、福島県の河川を経由して運ばれるCs-137の量を推計。
それによると、2012年6月1日から9月30日までの期間に太平洋に排出された放射性核種の総量の推定値は、17.1TBqでした。
この量は、福島県の海抜の高い地域の森林に降下し貯えられている放射性セシウムの総量と比較すると、ほんの一部に過ぎません。
■河口域の汚染グリーンピースの報告書『循環する放射能』でも詳しく述べられたように、放射性核種が下流に移動することによって生じる結果の1つは、福島県沿岸の河口域の汚染です。
河川から豊富な栄養分が流れ込むのに加えて、強い沿岸流の影響を直接受けにくいため、河口域は、多くの魚、貝や甲殻類、海生動物によって、餌場や繁殖地として利用される。セシウムが付着した水中を浮遊する粒状物の一部は川岸に堆積するが、鉱物に吸着した放射性セシウムの多くの部分は河口域に移動する。
C. Chartinら(2013) が明らかにしているように、河川流域の集水域は、河口域と沿岸地域に放射性セシウムを延々と供給し続ける供給源となる。
福島第一原発事故の放射能汚染地図(早川由紀夫)を参考に作成粒子状のものに付着したセシウムのうちごく一部は、河川が海に注ぎ込み水中の塩分濃度が高まると、水中を浮遊する粒状物から脱離。河川により運ばれる放射能の総量が膨大なため、それに占める割合がごくわずかであっても、脱離したり溶けたりしたセシウムの量はきわめて大きなものとなり、「海洋生物相内に容易に蓄積される」可能性があります。
2016年2月、グリーンピースは、福島県沿岸の各地の河口域で大規模な建設工事がおこなわれているのを目撃しています。
コンクリートの堤防建設や護岸工事は、河口域に依存して生き続けるはずの野生生物の存続を脅かすなど、環境面へ悪影響をもたらすのに加えて、河口と沖合における放射性セシウムの堆積に対しても影響を与えるでしょう。
■放射性セシウムの海洋での拡散と沿岸域での海底への堆積東京電力福島第一原発の港湾海域を除く太平洋の海水中における放射性セシウム濃度の低下は、初期段階の沈着後における土壌層位中の移動が非常に遅いのに比べて、海洋では、水平方向、垂直方向へ混合がより速いことで説明がつきます。
海岸近くの放射性セシウム、とりわけ海底の堆積物中の放射性セシウムの量は、2011年3月から5月の間に海に放出された総量の1〜3%に相当すると推計されてきました。この放射性セシウムの海底への堆積は、海底に棲む無脊椎動物と底生魚に見られる高濃度の放射性セシウムの蓄積をもたらしている主要因だと考えられる。
2013年に採取したコア試料について、Otosakaらは、Cs-137がすでに深さ1〜2pまで浸透していたものの、3p以深には達していないことを明らかにした。
Buesselerらは、生物が穴掘りなどによって堆積物をかき混ぜるなどの生物じょう乱作用(場所により0.5年〜30年続く)が、堆積物の表面の放射性セシウムの濃度を下げると推察している。
彼らは、現状の海底表面の放射性セシウムの汚染濃度は、今後何十年も変わることなく留まるだろう、そして「海底に生息する底生魚たちも汚染され続けたまま留まるだろう」と結論づけています。
<局所的に濃度の高い場所>当然だが、放射性セシウムは海底の堆積物中に均一に分布されているわけではない。2012年11月から2013年2月にかけて行なわれた、ある曳航式ガンマ線スペクトロメトリ調査は、東電福島第一原発のサイトから半径20キロメートルの範囲内で、Cs-137の濃度にはかなりのばらつきがあることを示しています。
この調査では、海岸線から沖に向けて幅4キロメートルの水域では、平均292Bq/kgという比較的高い濃度が検出された。最も高レベルの濃度が検出されたのは、原発の南1〜2キロメートルの海域であり、濃度は平均 438Bq/kgでした。
Cs-137の濃度は、海岸線からさらに沖合に遠ざかるにともなって低下し、海岸線から4〜12キロメートルの水域における平均値は69Bq/kg だった。こうした局所的な濃度の高さは、水中の潮の流れの影響を受けにくい海底の垂直状の地形(凹みなど)で見つかったが、このことから、海底の堆積物中の放射性セシウムの濃度が、各地点の海底の形状によって大きく左右されることがうかがわれます。
局所的に濃度の高い範囲は、長さ数メートルから数百メートルに及んでいた。また、Cs-137の最大値は 40,152Bq/kg+/-398Bq/kgで、数メートルの範囲でした。
研究者たちは、こうした局所的に濃度の高い場所は、「数年間という時間尺度で見れば比較的安定していて変化しそうにない」と結論し、さらに、「情報がないことが、事故が海洋生態系に及ぼす影響の予測や、効果的な復旧・回復戦略の策定を困難にしている」と指摘しています。
■海洋、河川、湖沼の調査:2016年2〜3月グリーンピースの海洋調査では、2012〜2013年に行われた調査(Thornton, Ohnishiら)によって東電福島第一原発から半径20キロメートル以内の海域で確認された局所的に高濃度に汚染された場所の存在を再確認することはできませんでした。
要因としては、局所的に濃度の高い場所は、極めて狭い範囲に散在していることと、海水の放射能遮蔽効果が高いことがある。例えば40,000 Bq/kg以上の濃度であっても1メートル離れると検出されない場合もあります。
グリーンピースが測定した堆積物のCs-137の濃度は、34〜120 Bq/kgの範囲内だった。グリーンピースの測定結果からは、局所的に高濃度に汚染された場所が存在し続けているのかどうか、あるいは放射性セシウムを含有する堆積物がすでに移動し、分散したかについて、確定的な結論は下せない。
<琵琶湖>グリーンピースは滋賀県琵琶湖で堆積物についてのベースライン・サンプリング調査をおこなった。この古代湖は、隣接する福井県にある関西電力の美浜原発と高浜原発から、それぞれ44キロメートルと64キロメートルの距離に位置しています。
この湖は、かつてこの地域に存在しその前身となったいくつかの古代湖を含めると、約350万年前から存在しており、名実ともに世界有数の古代湖です。
この湖には595の動物種と491の植物種が生殖するが、それらのうち、この湖の固有種および固有亜種は62種におよぶ。住民らが高浜原発の再稼働に異議を唱えて、大津地方裁判所に訴えを起こし、3号機と4号機の再稼働の停止を命じる決定を勝ち取ったが、事実、福井県にある原発の再稼働が琵琶湖の環境に対して及ぼす脅威こそが、住民らをこの訴訟に立ち上がらせた主要な要因の一つだった。琵琶湖はまた、関西圏に住む1,400万人の住民に飲み水を供給する水源でもあります。
調査結果堆積物サンプルの分析結果が示す放射性セシウムのレベルは、7〜13 Bq/kgだった。これは、東電福島第一原発事故以前である1997年に琵琶湖で測定された濃度を下回る数値である。
この結果は、現在、福島県内のさまざまな湖沼、貯水池、ダムで広範にみられる放射性セシウム汚染と明白な差異があり、琵琶湖を放射能汚染から守ることの重要性と緊急性を浮き彫りにしています。
すでに指摘したように、福島県内の汚染された流域にあるダム、湖、貯水池に関する数々の研究で、これらは、放射性セシウムを貯める汚水槽であると同時に、そこら他の場所へと放射性セシウムを運ぶ供給源になりうることが示されています。
例えば、東電福島第一原発の北北西39キロメートルに位置する
真野川のはやま湖は、ひどく汚染されていることが確認されてきました。
2012年の堆積物のサンプル調査の結果では、放射性セシウム濃度は 24,189 Bq/kg +/-5,636(湿重量)でした。これは、この湖に生息する魚類が放射性セシウムを摂取したことを示す。O. Evrardら (2013) が結論づけるとおり、「汚染された堆積物が、貯水池にそして沿岸地方の河川流域に貯まっていることは、今や、最も重要な問題を代表している」のである。
以上グリーンピース2016年11月ニュースレターより